スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

伊坂幸太郎の『モダンタイムス』


モダンタイムス(上) (講談社文庫)モダンタイムス(上) (講談社文庫)
(2011/10/14)
伊坂 幸太郎

商品詳細を見る


モダンタイムス(下) (講談社文庫)モダンタイムス(下) (講談社文庫)
(2011/10/14)
伊坂 幸太郎

商品詳細を見る

『モダンタイムス』は伊坂幸太郎『魔王』の後日談となっている。『魔王』の主人公だった安藤兄弟の甥が主人公。また2部構成だった『魔王』の後半の「呼吸」の主人公・安藤潤也が『モダンタイムス』の重要な登場人物にもなっている。

『魔王』は2005年10月、『モダンタイムス』は2008年10月の刊行と時期は少し離れているが、『魔王』に『モダンタイムス』の最後の場面が出てくるので、同時期に構想したんだろう。

『モダンタイムス』のテーマは、同名のチャップリンの映画のように歯車となって無意識に何かをしていると、特定の悪意を持った首謀者などいなくても「システム」としての悪意に加担してしまうことがあるというもの。そして、だからといってその悪に何も考えずに加担するのを好しとせず、個人個人が少しでも抵抗するべきじゃないかというのがテーマかな。

伊坂幸太郎の他の小説家には替えがたい魅力は2つあると思ってて、1つは、底辺に流れるユーモア。別に意識的に笑わせようとする部分があるのではなく、登場人物がそこはかとないユーモアと妙に楽天家的な部分を持っていて、殺人や拷問の場面があっても嫌な感じなならないんですよね。

もう1つは、一見なんの脈絡もなかったすべての伏線が、結末にかけて一気に収束していく何とも言えない快感。『モダンタイムス』には、1つ目のユーモアという魅力は健在だが、2つめの結末にかけての一気に収束する快感はなかった。

その代わりに上で書いた今までにない重いテーマがある。結構扱いにくいテーマを誰にでもわかるように書けているのはさすがの筆力だと思うし作家としての成長かなとも思うけど、僕はやはりいつもの伊坂幸太郎の2つの魅力を併せ持った作品を読みたいなと思った。

チンパンジーに記憶を移植された少女の物語『エヴァが目ざめるとき』

エヴァが目ざめるときエヴァが目ざめるとき
(1994/08)
ピーター ディッキンソン

商品詳細を見る

『エヴァが目ざめるとき』は、事故にあった少女が記憶をチンパンジーに移植されることにより生きてゆくというSFファンタジー小説。

母親は変わり果てた娘の姿に衝撃を受けるが、父親がチンパンジー研究家で幼い頃からチンパンジーと慣れ親しんで育った少女は、現実を受け入れチンパンジーの体に残っているチンパンジーの本能と折り合いをつけてゆく。

この小説の設定は自然環境がほとんど残っていない未来という設定になっている。だからチンパンジーの群れも野生には存在せず人間に保護されている。ところが人間は滅亡のときが近づいており、チンパンジーたちは独り立ちを余儀なくされることになる。

そこで登場するのが金持ちの道楽息子のグロッグだ。深い洞察力を持つ彼はエヴァの信頼を得るとともに彼女を導きチンパンジーたちに未来のために協力する。

グロッグを中心とした登場人物の発言が現代社会批判になっている。

人類全体がどんどん短絡的にものを考えるようになってきている。頭のいい若者は研究なんかしない。投資家たちはすぐに見返りが得られないものには一銭だって出そうとしない。政府も研究機関も、基礎研究には金を出さない。宇宙開発からも手を引きかけている。まだまだある。とにかく、なにもしようとしないんだ。人類はあきらめかけているんだよ。なにもかも放り出そうとしているのさ。

本物の破滅が近づいてる。どういう形の破滅であれ、おれたち人間は限界を越えようとしているんだ。

きみやステファンやほかの仲間がなんのために生まれたのか。それは、きみたちがチンパンジーに生きる術を教えられる存在だということだ。自然は、種が滅びることをよしとしない。できるものならチンパンジーを救おうとするだろう。だからこそ、きみは生まれ変わったんだよ。

世界中どこせにそうなんだ。橋を架けることもできないし、太陽電池を交換することもできない。道路でさえ直せないんだ。人々は税金を払わない。投資もしなければ、貯金もしない。農場で人手が足りなくて種まきができない地方もあるそうだ。


少女がチンパンジーとなってしまった自分の姿を嘆いたり、自分は人間なのかチンパンジーなのかなんてことで悩んだりしないのが清々しい。それよりも、チンパンジーの群れに中に溶け込んでいこうとする少女の知恵と勇気が読んでいてワクワクする。ジュブナイルSFということだが、大人が読んでいても気持ちのいいSFだった。

『下町ロケット』は気分爽快、元気が出る小説。

下町ロケット下町ロケット
(2010/11/24)
池井戸 潤

商品詳細を見る

『下町ロケット』は池井戸潤の直木賞受賞作品。かつてロケットエンジンの設計者として挫折した後、父の跡を継ぎ大田区の町工場の社長となった主人公がロケットの主要部品の納入という形で夢を実現する話。

WOWOWドラマで5回にわたって放送されたものを先に観てからの読書だったが、WOWOWドラマはかなり忠実に原作をなぞっていることがわかった。そういった意味で、WOWOWドラマを観た時の興奮を今回の読書では上回ることは出来なかった。本を先に読めば良かったかなと残念な気もする。

ま、どちらのバージョンの『下町ロケット』もたいそう面白いフィンクションということではまちがいない。

最初は社長である主人公の夢についてゆけず目先の利益しか考えない自社の若手社員の離反などで不協和音がただよう社内が、大企業の社員から不当な扱いを受けたことにより、メーカーとしてのプライドを取り戻し社内が一致団結してある意味大企業をぎゃふんと言わせる。気分爽快、元気が出る。当然面白いです。

主人公が言う

俺はな、仕事っていうのは、二階建ての家みたいなもんだと思う。一階部分は、飯を食うためだ。必要な金を稼ぎ、生活していくために働く。だけど、それだけじゃあ窮屈だ。だから、仕事には夢がなきゃならないと思う。それが二階部分だ。夢だけ追っかけても飯は食っていけないし、飯だけ食えても夢がなきゃつまらない。

って言葉に激しく同意。まさにそのとおりだと思う。昔のソニーとかGoogle、apple、Facebook、ザッポスなど大きなビジョンに向かっていく会社には魅力がある。

あと『下町ロケット』が共感を呼ぶ一因はロケットを題材にしたことにあるとも思う。ロケットや宇宙ってやっぱり夢がある。それで思い出すのは『宇宙兄弟』。映画化される予定の漫画で、幼い頃から宇宙飛行士になるのが夢だった主人公が、弟の後を追って宇宙飛行士になる夢を追いかけるというお話。これもすごくいいです。
宇宙兄弟(1) (モーニングKC)宇宙兄弟(1) (モーニングKC)
(2008/03/21)
小山 宙哉

商品詳細を見る

もう一つは立花隆の『宇宙からの帰還』もいい。エリート中のエリートで超合理主義者である宇宙飛行士たちが宇宙からの帰還後、宗教者になるものが多いという。彼らに対するインタビュー集。面白い。宇宙に行きたくなる。
宇宙からの帰還 (中公文庫)宇宙からの帰還 (中公文庫)
(1985/07)
立花 隆

商品詳細を見る

宮部みゆきの『英雄の書』を読んでキングや小野不由美のことなど

英雄の書 (カッパ・ノベルス)英雄の書 (カッパ・ノベルス)
(2011/05/19)
宮部みゆき

商品詳細を見る

『英雄の書』は宮部みゆきのファンタジー小説。小学生の女の子が主人公で、優秀なお兄ちゃんが学校で傷害事件を起こし失踪する。それはお兄ちゃんが邪悪な本に魅入られてしまったから。そして主人公の女の子がオルキャスト(=印を戴く者)となってお兄ちゃんと世界を救うための冒険の旅に出る。といったストーリー。そこそこ面白くはあったけど、宮部みゆきにしては物足りなかったというのが正直な感想。

宮部みゆきはスティーブン・キングの影響を強く受けている、特に執拗なまでの細部の描写を行うところ。これは先日エントリーした『ミステリーの書き方』で本人も認めている。その執拗なまでの細部の描写が、キング作品にも 宮部作品にも圧倒的なリアリティを与えている。
ミステリーの書き方ミステリーの書き方
(2010/12)
日本推理作家協会

商品詳細を見る

ただキングにしても宮部みゆきにしても、その圧倒的なリアリティはファンタジー作品ではその持ち味を活かせてないように感じる。キングは『シャイニング』や『呪われた町』に代表される初期のスーパー・ナチュラル・ホラーがその真骨頂であり、宮部みゆきは『理由』や『火車』や『模倣犯』のようなドキュメンタリータッチのミステリーがその真骨頂であると僕は思う。(キングのファンタジー作品では『タリスマン』が例外的に傑作だと思うが、これはピーター・ストラウブとの合作というのがいい方向に向かったんじゃないかと想像)

シャイニング〈上〉 (文春文庫)シャイニング〈上〉 (文春文庫)
(2008/08/05)
スティーヴン キング

商品詳細を見る


呪われた町(上) (集英社文庫)呪われた町(上) (集英社文庫)
(1983/05/20)
スティーヴン・キング

商品詳細を見る


理由 (朝日文庫)理由 (朝日文庫)
(2002/08)
宮部 みゆき

商品詳細を見る

火車 (新潮文庫)火車 (新潮文庫)
(1998/01)
宮部 みゆき

商品詳細を見る

模倣犯1 (新潮文庫)模倣犯1 (新潮文庫)
(2005/11/26)
宮部 みゆき

商品詳細を見る


同じスティーブン・キング・フォロワーだったら小野不由美のほうがファンタジーには合っている。宮部みゆきの『クロスファイア』が『ファイアスターター』への、『ブレイブ・ストーリー』が『タリスマン』へのオマージュ作品であるように、小野不由美の『屍鬼』はキングの『呪われた町』へのオマージュであるのは明白だ。

クロスファイア(上) (光文社文庫)クロスファイア(上) (光文社文庫)
(2002/09/10)
宮部 みゆき

商品詳細を見る


ファイアスターター (上) (新潮文庫)ファイアスターター (上) (新潮文庫)
(1982/09)
スティーヴン・キング

商品詳細を見る


ブレイブ・ストーリー (上) (角川文庫)ブレイブ・ストーリー (上) (角川文庫)
(2006/05/23)
宮部 みゆき

商品詳細を見る


タリスマン〈上〉 (新潮文庫)タリスマン〈上〉 (新潮文庫)
(1987/07)
スティーヴン キング、Stephen King 他

商品詳細を見る


『屍鬼』も凄い小説ではあるけど、『呪われた町』には敵わない。やはり小野不由美の真骨頂は『十二国記』に尽きると思う。『十二国記』の面白さは格別で何度読んでも飽きない。その世界観も面白いしキャラクター設定がなにより秀逸だ。そのあたり、小野不由美がライトノベル出身でライトノベルに必須である(と思われる)キャラクター設定の上手さがファンタジーの面白さと相関があるのかもしれない。

屍鬼〈1〉 (新潮文庫)屍鬼〈1〉 (新潮文庫)
(2002/01)
小野 不由美

商品詳細を見る
月の影 影の海〈上〉 十二国記 講談社X文庫―ホワイトハート月の影 影の海〈上〉 十二国記 講談社X文庫―ホワイトハート
(1992/06/11)
小野 不由美

商品詳細を見る


ま、いろいろ書いたけど結局ところ、スティブン・キングも宮部みゆきも小野不由美も大好きなんです・・・

作家志望じゃないミステリー小説ファンにとっても最高に面白い『ミステリーの書き方』

ミステリーの書き方ミステリーの書き方
(2010/12)
日本推理作家協会

商品詳細を見る

『ミステリーの書き方』は43人ものミステリー作家に、各自のミステリーの書き方を取材したもの。ミステリー小説を書きたい人に参考になるのはもちろんのこと、ただ読むことが好きなミステリー小説ファンにとっても最高に面白い。

この本を読むきっかけになったのは、この↓はてブエントリーで乙一の「プロットの作り方」が紹介されていたのをTwitterで見かけたから。
乙一の穴埋め式プロット作成術。 - Something Orange


この乙一の部分だけでもすごく興味深い。それが43人分も入っているのだから堪らない。

このように本書では、それぞれの作家が自分がミステリーを書くときに注意していることやどんな風に作品を作り上げていくのかというような楽屋裏を覗くことができる。映画の「メイキング」と同じような面白さだと思う。

あたりまえだけど、自分の好きな作家のところは特に面白い。個人的に興味深かった箇所をいくつか挙げると

東野圭吾は小説のアイデアについて、

もとになるアイデアは自分の中にたくさん持っていないといけない。トリックにしてもそうで、日常生活の中で意外に感じたりしたことを全部ストックしておくしかないわけです。そして、なぜ自分が意外に思ったのかを掘り下げていく。

僕は本からも映画からもテレビからも「これは意外だ」という発見をすることがありますが、意外に思った体験をそのままにしておくのではなく、なぜ意外に思ったのか、そのときの自分の気持ちを重視します。そこを突き詰めていくと、小説のアイデアに突き当たる。

なるほど、東野圭吾があれほど面白い作品を量産できるのって、そういう意識の持ち方の結果なんだなと納得した。

宮部みゆきは

ミステリーを書くときに一番気をつけているのは、謎解きに関わる人間の動機なんです。犯人の動機よりも、むしろそっちのほうが大事です。好奇心にかられてとか、放っておけないからとか、そういうものとは違う、もっと切実な、しかも日常に近いところにある動機。それがないと、そんなの警察に任せればいいじゃないかって話になりますから。

そうか、宮部みゆきの小説に虚構の中でのリアリティがあるのってそういうことだったのか。
あと、もう一点面白かったのは細部を書きすぎるということについて

描写に淫するっていうのは(笑)、スティーブン・キングの影響がすごくあると思います。

たしかにキングと宮部みゆきに共通するのは、どこまでも細かい描写によるリアリティ表現なんですよね。キングも宮部みゆきも僕はそこが好きなんだけど。

乙一はプロットの作り方について、

小説は文字が連なってできている一本の線だ。一本の線には両端がある。つまりはじまりと終わりのことだ。その二つをここでは発端と結果と呼ぶ。すべての物語は発端と結果を結ぶ線なのだ。ミステリを書くならば、発端と結果はすなわち、事件の発生と解決のことである。
 しかしその二つを結ぶ線が平坦で何の盛り上がりもなければ読者は飽きる。一本の線をどこかで折り曲げてジェットコースターのレールのように波打たせなければならない。そうして読者の心を揺さぶる必要がある。その折り曲げるポイントを把握するため、私はいつもプロットを書く。

このように乙一は映画のシナリオ理論に基づいてきわめて合理的なプロット作りをしていることがわかる。乙一は感覚的な作家だと思っていたので、これはとても意外だった。

北村薫は表現について、

表現する者の目になってみると、いろんな細かいものが自然に見えてくるはずなんです。そういう目を持った人が、表現者なんです。<書く>ということが表現ではなく、<見る>ということが表現なんです。

深いな。これってミステリーだけじゃなくて一般的に文章を書く心構えとしても言えてますね。

伊坂幸太郎は、

僕は、最初にあまり綿密なプロットは立てられないんです。書きたい場面や書きたいモノがあるだけで、映画でいえば、予告編のようなイメージしか持っていません。書きたい場面や「絵」があって、それらをつないでいくパターンが多いですね。

僕はデビュー前は特に、書店に自分の本が並んでいて、それをどうやったら読者に手に取ってもらえるか、とよく考えていました。あまりに本がたくさん並んでいるので。だから、そのためにはタイトルと書き出しが重要だと思ったんですね。なんというタイトルの本で、どんな書き出しの本なら僕は手に取るだろうかと想像していました。”誰かに届けたい”という思いがたぶん、一番大事なように思います。

僕の中では、乙一と伊坂幸太郎がとても才能が豊かな比較的若手の作家なんだけど、乙一が感性、伊坂幸太郎が論理の作家という認識だった。でもこれを読むと、それが逆だったということがわかって面白い。

香納諒一は好きな作家には入っていないけれど、作家志望の人へのアドバイスが目を惹いた。

本気で物書きになりたいのでしたら、道は簡単で、現在の十倍努力すればいいのです。さらに換言すれば、才能とは決して大それたものではなく、十倍の努力とは何かが自分で想像がつき、それを挫折せずにいつまででも継続することができることだと私は思います。

おそらくこれは作家だけではなくすべての専門家に当てはまる言葉だろう。

ここでは、僕が個人的に好きな作家の作品の種明かし的なことで興味深く感じた部分を紹介したが、他にミステリー小説固有のテクニカルなアドバイスなんかも多数あり、ミステリーを書きたいと思っている人にとっても興味深い本になっていると思う。

480ページ、二段組みなので非常に情報量が多く、すべてを精読できたわけではないので、また時間ができたときに、ゆっくりじっくり読むことをこれからの楽しみに取っておこう。
プロフィール

kaz

Author:kaz
本がとにかく好き。あとはテニス、映画、音楽、デジタル・ガジェットも。iPadラブ。

全記事(数)表示
全タイトルを表示
人気エントリー
最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
最新コメント
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
最新トラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。